どーも!久しぶりに村上作品を読んだ小太りです。
実はぼく、文学部出身で卒論のテーマが「村上春樹について」だったんですよ!
村上春樹というとオシャレなイメージがあって、熱心はファンはハルキストと呼ばれるぐらいイメージの強い作家。
しかし、本当はオシャレで乾いた文体の奥底に暴力に対するアンチテーゼだったり、社会情勢への厳しいバッシングを含んでいます。
村上春樹の勉強をがっつりしたぼくが大学卒業して数年ぶりに作品を読んだので、レビューします!
目次
作品について
今回紹介するのは「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
2013年4月12日に発売された13作目の長編小説です。4年ほど前の作品ですね。
発売当日は都内の書店に長蛇の列ができるなど、かなりの話題を呼びました。
タイトルが長くて覚えづらいですが、物語の内容をそのままタイトルにしたような感じになっています。
あらすじ
多崎つくるは高校時代、4人の友人といつも行動を共にしていた。友人4人はいずれも地元の大学に進むが、多崎は東京の工科大学に進んだ。
大学在学中に4人の友人から急に絶縁をされる。
大学卒業後は鉄道会社に就職した。現在、二つ年上の38歳の女性・木元沙羅と交際中である。
沙羅は「あなたに抱かれているとき、あなたはどこかよそにいるみたいに感じられた。もし私とあなたがこれからも真剣におつきあいをするなら、よく正体のわからない何かに間に入ってほしくない」と南青山のフランス料理店で言った。
そしてつくる自身が絶縁された4人の友人たちに会って直接話をすることで、事態を打開するように勧める。
そして、つくるは4人の友人に会う旅に出る。
あらすじは上記の通り。
主人公の多崎つくるが仲の良かった4人の友人(アカ・アオ・シロ・クロ)に、何も前触れもなく絶縁された原因を知るために旅に出るというストーリーです。
春樹の長編ではよくあることですが、謎を解決するミステリーの構造を持っています。
タイトルにある「色彩を持たない多崎つくる」というのは、他の友人たちと同じように名前に色が入っていないということ。
その彼が、謎を解き明かすために旅(巡礼)で出かけるというものです。
感想
ぼくは村上春樹の初期の作品を結構読んでいたので、最新の長編を読んでかなり印象が変わりました。ここでは感想を述べます。
登場人物・設定がかなり現代風
村上春樹の作品では登場人物が架空の仕事をしていたり、物語の舞台がありえないほど現実離れしてるケースが多々あります。
しかし、この作品は極めて現実に寄り添って作られており、かつ現代風です。
物語の舞台は大きく分けて3つ、名古屋・東京・フィンランド。すべて現実にある場所であり、名古屋・東京にいたっては私たち日本人にとっては馴染みがあるどころか現実の1部分です。
さらに、主人公の友人であるアカは自己啓発セミナー会社の社長をしています。この職業もかなり現代的。他の登場人物は「アカのやっていることは好きになれない」と自己啓発セミナーに関して否定的な意見を提示します。
アカ自身も「ここで会社に役立つソルジャーを育てる」と皮肉っぽく自分の仕事を表現するシーンがあります。
ここに村上春樹の社会批判が投影されていると感じます。会社のいいなりになり、自分の頭で考えることのできないソルジャーを作ること、そのことがビジネスとして大成功している現状を批判しています。
解釈しやすくなっている
昔の作品に比べて解釈しやすくなっています。作中にかなり分かりやすいヒントが散りばめられており、内容を理解しながらサクサク読めました。
主人公の多崎つくるは自分が色彩を持っていないと悩みますが、他の登場人物から次のような言葉を投げかけられます。
「ねえ、つくる、ひとつだけよく覚えておいて。君は色彩を欠いてなんかいない。そんなのはただの名前に過ぎないんだよ。」
「君はどこまでも立派な、カラフルな多崎つくる君だよ。」
かなり直接的な表現です。従来の作品ではこのような物語のテーマに関わることは直接的な表現をしません。
仄めかすようなフレーズだけ残して、あとは読者の想像させたり、脳内補完させるというのが今までの書き方でした。
上記で説明した、「現代風」に合わせて長い文章を読まなくなった現代人でも最後まで読めるように解釈しやすい構造になっています。
主人公=読者である
主人公の多崎つくるは友人のように色彩を持たないことを悩んでいます。ぼくは色彩=個性だと考えました。
友人達はとても個性的でそれぞれの得意分野がありましたが、つくるは自分のことを「無色透明で何もない」と言います。
これって周りの人と比較して、「自分には個性がない」と悩む現代人と重なりませんか?
つくる自身は色彩=個性がないと悩んでいましたが、友人たちを訪ねて旅をした最終地点で「君はカラフルだよ」と言われます。
これは旅の過程が、つくるにとっての巡礼となり、その果てに色彩=個性を持つことができたという救いの物語になっています。
また、友人から見ればつくるは「いつも冷静沈着でクール」というイメージがあり、それが1つの個性になっています。
つまり、個性がないと悩む人も客観的に見れば個性があり、旅路=人生の中で個性を獲得できるという意見が隠されています。
個性がないと悩む現代人に向けて救いメッセージですね。
他の作品もオススメ
この作品も結構面白かったしサクサク読めましたが、他にもオススメ作品があります!
今回は3つに厳選して紹介します!
入門編:風の歌を聴け
村上春樹のデビュー作。独特の乾いた文体は少し現れていますが、そこまでクセがなく読みやすいです。
ボリューム自体も多くないのでサクッと読める初心者向けの1冊です。
中級者向け:羊をめぐる冒険
1982年に出版された、3作目の長編小説です。村上春樹がジャズ喫茶店をやめて、専業で小説を書いた初めての作品。
村上春樹作品の特徴でもある謎解き冒険物です。この作品では星のマークが入った羊を探すことが謎解きの鍵で、その羊を求めて北海道まで旅する物語です。
邪悪な敵役が登場し、のちの作品のスタンダートになる要素が詰まった1冊。
ちょっと長い物語も読めて、村上春樹の本気を知りたい!という中級者向けにオススメ。
上級者向け:ねじまき鳥クロニクル
1994年に出版された8作目の長編小説。3部作でかなりのボリュームです!
主人公の飼い猫が失踪し、妻が行方不明になることが物語がスタートし、徐々に歯車が狂っていきます。
妻の失踪の裏側に主人公の兄の存在があることに気づき、兄に立ち向かっていくというストーリー。
謎を解決するために悪に立ち向かうというお決まりの構図ですね。
ただ、この作品は別軸の話が同時並行しており、それぞれの物語がねじまき鳥によって1つに紡がれるという複雑な構造を持っています。
読んでて頭がこんがらがってきますが、それだけ奥が深く、村上春樹を楽しめる1冊です。
かなりのボリュームなので、上級者にオススメ!
まとめ
今回は「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」のレビューと他のオススメ作品を紹介しました。
久しぶりに村上春樹の作品を読みましたが、面白さはそのままで分かりやくなっていました。
普段小説を読まない人でもサクサク読めて面白いと思います!
いやー読書って楽しいですね。また面白い作品を読んだらレビューします!
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